今日は何もない休みだ!と思ったときに事件というのは発生するもの。油断していた。山田は心からそう思った。目の前には、おかしな状態の死体。隣には、
「なんなんだろーわかんねー」
役に立たない部下が一人。
私の名前は山田令二。職業は警部。奇妙な事件を担当している。奇妙ってことはめんどくさい。めんどくさい分報酬は高い。でもやっぱめんどくさい。しかも、この田中という部下。こいつがいるせいで余計にめんどくさい。(何回めんどくさいって言ったでしょう?)はあ。いつもの自己紹介の短縮バージョンでお送りする。やれやれ。では次に現状。ここは東京の豪邸、藤花邸の庭。殺されているのは藤花家の次女、藤山蓮子。24歳。独身。腹部に締め付けられた跡があるため、殺された後この庭に運び込まれたと考えられる。ここまでは変な事件としてあるあるだが、ここからがおかしい。髪の長い女性だったはずなのだが、とても髪が短い。ショートカットだ。ざっくり不器用に切っている。殺される直前切ったらしい。執事が証言している。しかし、執事はそのことに納得していない。なぜなら髪を切りに行ってくると藤山蓮子が言った四十分後、庭で殺されているのが見つかったからだ。ニ十分なら普通じゃないかと思う人もいるだろうが、この藤花邸は広すぎて(自分の家の部屋の数がわからない人って見たことある?)玄関から門までが五百メートル。往復で一キロしかも被害者行きつけの店は藤花邸から三キロ。車を使っても五分ぐらいかかる。それだったら間に合う?いや、蓮子は、こだわりが強くて、髪の毛には特に気を使ってたらしいから、一時間ぐらい、床屋で浪費するだろう。つまり、少なくとも床屋に行くので、一時間十五分ぐらいは使うということだ。しかし、ニ十分で、髪を切って帰ってきた。不可解だ。というわけだから、第一発見者のところに話を聞きに行こう。
「いくぞ。」
「どっこいしょ~」
意味が分からない返事をして、田中はついてきた。面倒だということには変わりがない。
「ほんとですか刑事さん?」
被害者の彼氏、竹山慎吾がそう言った。竹山慎吾の家は藤花邸の隣。藤花邸とまではいないが、ここも豪邸だ。竹山慎吾は竹山メーカーという会社の御曹司。お金持ちがお金持ちの家に嫁いでもっとお金持ちになるという典型的な例だろう。まあそんなことは置いといて、話を進めよう。この後竹山はこういった。
「まさか、自殺ですか。」
「何故ですか?」
田中が聞き返す。確かにいきなり自殺というところを見るとおかしい。
「あの・・・」
竹山慎吾の長話を短く簡単にすると、
1一か月ぐらい前からの蓮子の様子がおかしかった。
2自分もイライラしてきた。
3別れようと自分から言った。
4綾香は怒ったような悲しいような嬉しいような…とにかく不思議な表情で去っていった。ということだ。うーん証言としてオーケーだけど話が悲しい。まあまた証言者がいるだろうからいいか。
「ありがとうございました。」
私はそう言って去った。田中も急いでついてきた。
「殺されてしまったんですか!」
被害者行きつけの床屋の店長、中島綾香が言った。初耳のようで、すごい驚いている。
「よく来てくださってこの店一番のカモ・・・いえ、お得意様で利益の一割を占めているんですよ!大赤字です!刑事さん!犯人捕まったら来てください!そいつぶっ飛ばしてやる!」
ぶっ飛ばすと言っているところから見ると、柔道っぽい感じだ。実際柔道をやっていたらしい。
「昨日どこで何をしていましたか。」
山田が聞くと
「なに、アリバイ証明ですか?えっと昨日はいつも通りここで働いていましたよ?ここにいるほとんどはいたから証明にもなっているでしょう。」
勝ち誇った様子で、中島は言った。念のために後で他の店員にも聞いたが、いたと言っている。だがほかにもいろいろ聞くことがある。
「二つ目に聞きたいことがあります。昨日被害者はここに来ましたか。」
「え‼来ませんでしたけど・・・。」
え‼来なかったの・・・。大きな矛盾。他の店で切ったのか?しかしこの店以上に近い店はない。そんな手際の悪いことはしないだろう。執事も言っていた。おかしいと。なぜだ。おかしい。あやしい。まあ三つ目のことを聞いてからにしよう。
「三つ目に聞きたいことがありま・・・」
「昨日来なかった店員はいますか?」
先に田中が言った。先に言うのは天下一品だな。中島も、さっきまで何も言っていない田中が喋ってったことに焦ったようだったが、すぐに
「ああ、いましたよ。えっと越山雄太だったっけ。」
といった。よしすぐにそこへ急行!
「だ、か、らぁ関係ないって!」
越山雄太の自宅。今日は休みらしく家にいた。見た感じは、ひょろひょろで、イケメンだ。
「そう言われましても昨日来なかったのは貴方だけしかいないんですよ。」
「そんなこと言われても・・・。」
「じゃあ昨日のアリバイはありますか。」
「ないけど、違うと言っているじゃないか!」
完全否定。だが山田は長年の勘でこの男は白だと思っていた。
「なら、怪しい奴はいますか。」
また田中が人の言葉を先に言う。
「そういうやつはいませんよ。」
「そういうやつは、ということはほかに変な人がいるんですね。」
私が先に言う。二回連続で言葉を取られてたまるか。
「はい。よく藤山さんと一緒に来られていた女性がいます。名前は横山恵子だったっけ」
「私が殺すわけないじゃないですか。」
冷静。一番最初に思い浮かんだのはその言葉だった。横山恵子は一軒家に住んでいた。髪型がショートカットで被害者と同じ髪型。知的な雰囲気が漂っている。
「でもさっき会いに行った人があなたを証人と言っていましたよ。」
すぐに人のせいにする田中。
「いえ、私たちはとても仲が良かったんですよ。中学生のころからずっと仲良しで、仕事まで一緒だったんですから。」
確かに仲がいい。まあこのことがほんとだと証明する証人がいないのだからしょうがないが。
「おーい、飯まだかー」
男の声が聞こえる。たぶん恵子の旦那だろう。だが空気を読め。今はなしているんだ。田中が
「ご飯作ってあげたらどうですか。」
といった。恵子の旦那よりも空気を読め、田中!
「いえ、旦那はたぶん寮で食べてきているのでいいです。」
「寮?」
よ!田中、人の感情読むの日本一!じゃあ次は感情よりも空気読もう!
「ええ、同じ中学校と高校でモテモテだったんですけどやっと、先月結婚したんです。でもプロ野球選手だから寮で生活してて、たまにしか帰ってこないんですよ。」
へえプロ野球選手ね。そりゃ自慢できるわな。じゃあ聞き出せるのはここまでだな。
「あり・・・」
「ありがとうございました!」
そこ上司が言うところだろ!たなかぁ!
夜になった。山田と田中はあの行きつけバーに来ていた。
「あーこんなことやってていいのか~」
田中が嘆く。確かにこんな難事件が起きたのにのんきにバーに来ている。ありえない。だが、もともとここの酒は目当てではない。ここの店主の若いバーデンダーがめあてだ。
「どうしました、お客様。その顔は何か事件でも起きたのでしょうか。」
「お見通しだな。」
そうこのバーデンダーはまえ私が来たとき事件のことを話して、それをあっという間に解いてしまった天才。(それわた‼第一巻を読んで。)今日もこのために来た。だが何も覚えていない田中は
「あなたには関係ない。」
と言って突き放す。前の事件を忘れているようだったからそれを教えたらすごい驚いて気を失った。さすがに驚きすぎだろうと心の片隅で思いながら山田は事件のいきさつを語りだした。
作者からの挑戦
ここまで読んだ皆さん。真相はわかったでしょうか。わかったら天才!でも解けない人もいるでしょう。だったらもう一度読み返してみましょう。髪の毛の謎、人との関わりをつなげれば一つの真相につながるはずです。 もう、お分かりですね。
「ははあそういうことでしたか。」
「そういうことなんですよ」
いつの間にか気付いていた田中がふてくされて言った。
「でも、もう謎解けてしまいました。」
「マジですか(笑)」
予想よりも二十秒早い。
「謎解きしてよろしいでしょうか、お客様。」
「どうぞどうぞ。」
嫌だという田中の口を押えながら言う山田。バーデンダーはこくんとうなずいて
「それでは僕のなぞ解きを始めます。」
と前置きしてなぞ解きを始めた。
「さて、まずあなたがおかしいと思ったのは床屋に来てるか来てないかの謎ですね。」
「ああ。大きな矛盾を感じた。」
「しかし、被害者の行きつけの店のほうが信じられます。髪はショートカットで不器用に切ったあったんですね。床屋が不器用に切るとはとても思えません。つまり床屋には来ていないのです。」
「だがそうするとなぜ髪の毛を切られていたんだ?」
「確かにそこにはおかしな点があります。ですが僕はそれがどうなっているのか推理しました。」
「なんだそれは?」
「カツラです。」
「カツラ⁉」
予想外の言葉。バーデンダーが続けた。
「被害者はかつらをかぶっていたんです。短い髪を隠すために。」
「どういうことだ?」
「詳しくは後で話します。次に、数字に注目しましょう。一番最初の竹山氏の証言ありました一か月ぐらい前にいきなり被害者の調子がおかしい。の一か月という部分で気が付くところがあるでしょう。そう、横山氏の証言です。旦那と一か月前、結婚した。これが大事になってきます。」
「どこがだよ!」
田中が言う。山田が叩く。バーデンダーがため息をする。
「忘れたんですか。被害者と横山氏は中学生からの同期、そして横山氏とプロ野球選手の旦那さんも中学時代からの同期。だから『あ=い=う』のように被害者と横山氏の旦那も中学生からの同期となります。横山氏の話によると旦那・・・じれったくなりました。太郎氏ということにしておきましょう。太郎氏は中学、高校とモテモテだったよう。被害者が太郎氏に恋心を抱いていたのも不思議ではありません。そして被害者は今は彼氏がいたものの、それはお金持ちで、結婚させられたようなもの。まだ太郎氏をあきらめていなかったのでしょう。だから同期だったとしてもその憧れの人と結婚した横山氏がとても憎くなったのです。だから横山氏を陥れようとしました。しかし被害者も人間です。さすがに同期を殺すのは気が引けたでしょう。だから・・・。」
「ちょっと待ってくれ。」
山田が口をはさむ。
「それではまるで被害者が犯罪を企てたようじゃないか。おかしいじゃないか。」
「ああ先に結論から言ったほうがよかったでしょうか。この殺人事件は・・・」
一度言葉を切りバーデンダーが深呼吸する。そしてしゃべりだす。
「完全な返り討ち殺人だったのです。」
「返り討ちと言いましたね。そのままです。被害者は誰かを殺そうとして返り討ちにあったんです。それでは犯行方法に移りましょう。さっきカツラのことを言いましたが、髪の毛を長く見せるカツラです。被害者はもともとショートカットでした。そして長い髪の毛を隠して変装したんです。」
「誰に?」
山田が口をはさむ。
「横山氏です。」
あっさりと答えるバーデンダー。山田はその言葉が頭でうまく文字変換されなかった。ヨコヤマシデス・・・?その意味が分かった時「え~❕」
すごく驚いた。当たり前だ。ほんとはそういうことはなかったはず。
「そう。被害者は横山氏の姿で人を殺して、横山氏を陥れようとしたのです。しかし思わぬことにその人物に返り討ちにされてしまったのです。」
「その人物とは・・・」
田中が乗ってくる。しかしバーデンダーから帰ってきた返事は意外なものだった。
「ここからはご自分でお考え下さい。」
ズコーッッッッッッッッッッッそんな殺生な・・・・・。
「ご安心ください。ここからは無能な警察でも解ける理詰めでございますどうぞお考え下さい。」
山田の様子に気づいたのか、バーデンダーがすかさずフォローする。でもフォローになってないぞ~無能な警察って何だよ~と思いながらも山田は思考を巡らせる。田中が先に言う。
「床屋の中島だったらどうだ。柔道もやってたんだから力もあるし、死体の持ち運びはできるだろう。車も持ってるし。」
「いいえ、違います。」
バーデンダーの完全否定。
「考えてみてください。藤花蓮子は自分の床屋の一番のお得意。その人が殺されてしまったら、自分の店も大赤字。破産します。そうすれば中島も困ります。だから中島は殺されそうになっても逆に腕力を止めるのに使いますね。」
「うぐっ」
田中がうめく。ああ、無能な警察っていうのはこいつのことだったのか。で、中島は外されたっと。じゃあ、あてずっぽだーい!
「竹島‼」
「その通りです。」
よっしゃ当たってたー
「何故ですか。」
「うぐっ」
山田もうめく。当てずっぽうだなんて言えない。
「当てずっぽうなんですね。」
「ぐはっ」
またうめく。なんでもお見通しだな。このバーデンダーは。
「はあ。貴方が説明できないのなら私が説明しましょう。まず、最初の証言から考えて、一か月ぐらい前から被害者の様子がおかしいと言っていましたね。そしてその一か月前というのは横山氏が結婚した時だというのも言いましたね。その後、被害者の態度が嫌になって竹山氏から分かれる話を持ち出しました。すると複雑な気分になったでしょう。別れるのは嫌だっただろうし、でも横山氏に変装して竹山氏を傷つけることにより横山氏を陥れることもできるし自分を捨てた竹山にショックを与えることもできます。まさに一石二鳥。うれしい気持ちもあったでしょう。だから不思議な表情だったと考えられます。」
バーデンダーはそんなこともわからないのかという顔を向けながら言った。
「ここで激しい葛藤が起こるでしょう。しかし勝利したのは悪魔のほうでした。その悪魔は横山氏に変装しました。おそらく自分でショートカットにしました。不器用だったのはそのせいでしょう。変装はショートカットにサングラス、手袋、といった感じでしょう。そして、竹山氏がいる場所、または自分で約束した場所に行きます。そして、傷つけるという行為に出ました。殺してはいけません。横山氏に容疑の疑いがかけられるように印象を残さなければならないからです。しかしその手加減のような中途半端な傷つけ方が裏目に出ました。返り討ちにされてしまったのです。これは被害者も驚いたでしょう。そして藤花氏は死んでしまった。竹山氏も驚きました。正当防衛なので罪は軽いですが、竹山メーカーの御曹司なので社会的評価で会社がつぶれるかもしれない。こういったこともあって自分は藤花氏を殺したことを隠すことにしました。事件はこのようなものだと考えられます。」
あくまで想像にすぎませんが、と後付けしてバーデンダーは謎解きを終えた。想像と言っているが、それが事件の核心なのだろう。と山田は思った。その後田中と山田はそれぞれ言った。
「見事です。」
と。バーデンダーは少し照れたようなそぶりを見せた後こういった。
「僕は一介のバーデンダーです。」
と。
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