海舟文庫

一介の殺人事件

 今日は悪いし、寒い日だな。心から山田警部は、そう思った。

 目の前には、変な死体。そして横には

「お~これは変な死体ですねえ。」

役に立たない部下が一人。

 ここで自己紹介と、現状。私の名前は山田令二。職業は警部。不可解な事件を担当している。不可解な事件だから報酬が高い。しかしその分面倒だ。しかも、ただでさえ面倒なのにこの、田中という部下。全然役に立たない。というか、おかしい。警察になった理由が、面白そうだから。という、おかしすぎるやつだ。

 では、次に現状。ここはヤナセマンションの5階。この変な死体は、政治家の飛鳥心美。年齢は43歳。神奈川県で一番票が入るくらいだから、いろんな人に恨みを買っているだろう。だから、犯人の見当もつかない。いや、殺人だと分かったわけでもない。自殺かもしれないからだ。なぜか?それは犯人の指紋もなくて、凶器が被害者の手に持たされていたからだ。しかも、ナイフで心臓を一突きされているし、しかも、その切れ目がギザギザなのだ。もちろん被害者の持っているナイフからは、被害者の血がついていて、でも、刃はギザギザじゃない。だから、不可解な事件といえるのだ。さて、これで終わりだ。

「おい。第一発見者に話を聞きに行くぞ」

と、私が言うと

「あいあいさー」

と田中が答えた。だからこいつは・・・・・

 「いや、まだ信じられませんよ。」

第一発見者の野崎達明が言った。野崎達明。33歳で、被害者とは同じマンションの住人ということだけが同じだ。

「なぜ何も関係ないのに見つけたのだって?それはドアが開いていたから、え、どうしたのだろう。いつも、絶対閉めてあるのにと思って入ったのですよ。」

捜査の基本は第一発見者を疑うのが基本だが、そんな基本なんか信じられなくなってきた。すごいしっかりとした証言だ。念のため。

「ほかに気になったことは?」

ときくと、横に首を振った。はあ。これでは、手掛かりはつかめないか・・・・・と落ち込んでいると、田中が、

「あの~」

と言い出した。お、何かいいことでも言いだすのか!やはりこいつも警察だったか。と思

い、何を言うのか待っていると

「さっきから気になっていたのですが、この、

おいしそうな匂いはなんですか。」

と、言い出した。ガックシ。しかも、野崎が、「ああそれは、今朝焼いたクッキーの匂いですよ。おいしいにおいがするように作ってみたのですよ。食べてみますか?」

と返すものだから、

「はい!」

といって、ティッシュを田中が出し始めてしまった。私はうんざりして

「失礼いたしました。」

といって田中を引きずる羽目になった。はあ。やっぱりきょうは悪い日だな。山田は、つくづく実感したのだった。

「え、私が殺したはずないでしょう。」

犯人候補、2人目佐藤花子。普通で、普通の普通過ぎる顔の女性。22歳と、まだ若い。つながりというと、1票さで神奈川県長の座を逃してしまったひとだ。これは大きな動機となるだろう。と、思っていたのだが佐藤の秘書が証言をした。

「佐藤先生は、極めて飛鳥県長と仲良くしていました。友達のような感覚で相談したりもしていました。佐藤先生が、飛鳥県長を殺すはずがありません。」

「はあ。」

山田はうなずくしかなかった。

「では、念のために聞きますが野崎達明という名前をご存じですか。」

と山田が言うと

「え、なぜ、その名前を警察の方が・・・・・」

と、答えた。お、これは期待できそうだぞ。

「まえ、相談で聞いたことがあります。飛鳥県長が今年の八月秘書の弟をくびにしたときに新しい仕事を、その弟さんに紹介してしかも、弟さんの借金をすべて返してあげたとてもお世話になった人が野崎達明だったような気がします。」

うん。それだけかよ。証拠にもならねえよ。あはははは。まあそれが聞けただけで良しとしようと、山田は思った。

「ありがとうございました。」

と言って山田は佐藤のいるところを去っていった。え、田中は何で出てこなかったって?ああ、田中なら外の柱に縛り付けておいたよ。うるさいから。

「え、犯人の指紋も、残っていなかったんですか?」

犯人候補3人目、クリアーノ・ボルテが言った。日本人と、アメリカ人のハーフで45歳被害者との関係は、今年の八月、新しい鉄道を作ろうとした飛鳥県長と対立したことぐらいだ。他には何も知らなかったし、飛鳥県長が死んでしまったことも今知ったらしかった。

「本当に何も知りませんでした。鉄道には反対しましたが、あの人のことだけは知りませんでした。」

とボルテはいった。本当に何も知らなさそうだったので、山田は引き上げた。え、今度も田中出てこないじゃないかって?ああ、つれてきたけど、さるぐつわしてたからしゃべれなかったんだよ。

「姉さんが死んでしまったなんて信じられませんよ!」

犯人から外されそうな人物、飛鳥県長の弟、飛鳥幸太郎がこう言った。弟となると、自分の姉を失うことはできたりしないだろう。とおもっていたが、考えてみると幸太郎も秘書から追いやられているし姉のせいで借金がたまり自分にその借金を回されたから動機があるともいえる。だから今の状態では、何も言えない。というのがいいだろう。まあ、証言にはならないと思うが一応書いておこう。

「ああ、野崎さんには感謝の言葉しかないですね。ほんとうに、こうやって暮らせているのは野崎さんのおかげですよ。そういえば、野崎さんも、姉に、重役を任されたのにそれをやめさせられたって言ってました。そう意味でも、あっているのかもしれないです。あ、それと姉とも仲直りできていますから。」

この後本人の希望で、殺人の現場に行った。姉が幽霊になって残っているかもしれないから成仏させたいんだそうだ。事件現場に行くと不思議なものが残っていた。田中が先回り

してまっていた。

「警部、これを」

それは、{お前を許さない}とだけ書いてある脅迫状があったのだ。その脅迫状は新聞紙の活字をのりで張り合わせたものだった。

「え、こんなものが・・・・・」

と反応しながら、幸太郎はひったくるように

その脅迫状を取った。幸太郎は検視官に、

「これは指紋を取りましたか?」

と聞いた。検視官は首を横に振った。幸太郎は今気づいたようで

「あ、素手で触ってしまった。どうしましょうか。そうだ検視官さん。僕の指紋を取ってください。この脅迫状から僕以外の指紋が出たらそれは犯人のものです。さあ早く!」

検視官がそれを受け取ったとき新聞紙の活字がはらりはらりとおちていった。

夜になった。山田と田中は最近できたというバーに来ていた。

「結局、幸太郎以外の人の指紋は発見されなかったんですか。」

「ああ。」

かわいそうな山田。田中は

「いやあ全員捕まえたら早いんですけどね。」

すぐに田中を羽交い絞めにする山田。

「お二人様。」

若々しい声が聞こえた。

「何ですか?」

と山田が聞くと怒った顔で若いバーデンダーが

「店内で、騒がないでください。」

と言った。

「すみません。」

山田はすぐに謝ったがバーデンダーは

「許しませんすぐ出て行ってください。」

と言われた山田たちが出ていこうとすると

後ろから声がした。

「待って下さい。」

バーデンダーだった。振り返るとバーデンだーが言い出した。

「本当は追い出すつもりだったのですが、何か事件でお困りのようなので、話してくれませんか?たぶんお力になれると思います。話してくれないと追い出しますけどね。」

山田は一瞬頭に?が浮かんできたが、追い出されたくなかったので、事件のいきさつを細かく語りだした。

     作者からの挑戦

さて、これから名探偵の謎解きが始まります。しかし、その前にあなたたちも頭を使ってみましょう。四人の証言。脅迫状の謎、指紋の謎を一つにつなげればきっと答えは出るはずです。真相はなぞと隣り合わせなんですからそれでは自分なりの答えが出たところで、名探偵の謎解きを始めましょう

「はあ。そういうことですか。」

バーデンダーはいった

「あなたに、この謎が解けるはけないでしょう。私でも解けなかったんですから。」

山田は、落ち込んでただけだと思う。

「いや、解けましたよこの謎。」

バーデンダーが言うと

「じゃあ聞かせてもらいましょうか。」

と田中が言った。自分がわからないから潔く田中はあきらめている。

「それでは聞いてもらいましょうか。私のなぞ解きを。」

場の空気が、重くなる。

「では始めましょう」

「この事件では、嫉妬や同情、憎しみや怒り、悔しさや人間の弱みが隠されています。ではまずあなたたちはなぜ、飛鳥幸太郎氏が、秘書から外されていたのか知っていますか?それは失敗したからでしょう。しかし、何の失敗をしたのか知りませんよね。でもそれは、佐藤氏と、ボルテ氏の証言から分かります。まず、幸太郎氏が、秘書から外されたのは今年の八月です。飛鳥県長が行ったことはなんでしょう。それは、鉄道開発ですこれは、ボルテ氏の証言から分かります。しかし、ボルテ氏は飛鳥県長のことを知らなかった。ここから一つの推理ができます。幸太郎氏が、してしまった失敗とは鉄道の計画を一人で進めてしまった。ということではないでしょうか。その失敗を背負ってしまった幸太郎氏は、秘書をやめさせられてしまいました。これが第一の謎、幸太郎氏がなぜ秘書をやめさせられてしまったかです。それでは次に、第二の謎指紋の謎と、脅迫状の謎です

「指紋の謎。これは極めて簡単です。ふつう、新聞紙の活字を張るだけで簡単ではないのに手袋をつけて、張る作業をする。それは不可能に近いです。ですが、そうすると指紋がついてしまう。それを逃れるための方法はたくさんありますが、あの4人の中に犯人がいるとしたら、一番簡単なのは自分で触ってあたかもあとから指紋があったように見せかけることです。そして、あの4人の中で、唯一あの脅迫状を触って、いる人物がいます。それは、」

「幸太郎か。」

山田が口をはさむ。

「はい。その通りです。つまり、脅迫状を書いたのは幸太郎氏が、ということになるでしょう。そして、脅迫状を出したのが幸太郎氏なら、飛鳥県長を殺したのも幸太郎氏。ということになるでしょう。」

「ちょっと待ってくれ。いくらなんでも、人間が自分の姉を殺せるとは思えないぞ。」

山田がまた口をはさむ。バーデンダーは

「いいところに気が付きました。なぜ、家族を殺してしまったのか。それが、ガタガタの切れ目、そして落ちてしまった活字に関係してきます。そして、新たな謎真犯人の謎が生まれるのです。」

「真犯人?」

田中がわからないように聞いてきました。

「僕はそれを今から証明してきましょう。

「さて、さっきの話で、犯人がボルテ氏、佐藤氏の可能性は消えました。真犯人がいたとしたら、野崎氏しか考えられません。では、まず私が真犯人がいると確信した理由を教えましょう。それは切れ目と新聞の活字でした。まず切れ目。あのギザギザの切れ目があるということは、ナイフがギザギザで、犯人が所持しているか、手が震えていたかのどちらかです。しかし、ナイフからは被害者本人の血がついている。これは手が震えていたという考えしかなくなります。なぜふるえていたか。それは恐怖心か、それとも悲しくて泣いていたか、笑っていたかです。少なくとも身内をさしているので、笑っている可能性はなくなるでしょう。つまり、これは殺したくて殺したということではないということでしょう。次に、落ちた活字です。これも同様に、震えていてうまくのりがつかなかったんでしょう。さて、身内を殺させるぐらいの強大な力を持っている人物、またはそれほどまで大きなかしがある人物が真犯人ということになるでしょう。そして、このどっちかの条件に当てはまる人物それは野崎達明氏しかいないということです。」

「はあ。」

「へえ。」

山田と田中の二人は感嘆の息を漏らした。続けてバーデンダーも

「これで、僕のなぞ解きは終わりです。静かに聞いていただきありがとうございました。少しでも役に立てば幸いです。」

山田はこういうことを考えていた。本当に、今日は悪い日だ。こんな青二才に事件の謎を解かれてしまうなんて。山田は言った

「また来てもいいかな。」

「喜んで。」

バーデンダーはいった。山田は外に出る間際に聞いてみた

「君はいったい何者なのかね。」

と。すると間もなく返事が帰ってきた。

「僕は一介のバーデンダーに過ぎません。」