この物語は、幕府三代将軍、徳川家光さまが、なぜあんなに厳しいのかを書いたものだ。
将軍になってからしばらくはまだ家光さまもそんなに厳しくなかった。でもあんな事件があったら厳しくなるだろう。
さて、家光さまの性格を話してやろう。親孝行者で、親の言うことを聞くのは当然だと思っている。とてもやさしい人柄で、とてもおとなしい。と、いうか、おとなしすぎて腑抜けている。油断している。ではさっき言った事件のことを話してやろう。
家光さまが城を出て城下町を見回る日があった。家来は連れていたがひとりだった。昼時家光さまの目は蕎麦屋に向いた。家光さまはそばが大好きだったのですぐに行こうとした。家来には一人の時間を邪魔されたくなかったので、
「ちょっとここで待って俺。わしは腹がっ減った。川で遊んでてもいいぞ。」
と言った。家来は、
「分かりました。河原で水きりでもやって待っています。」
と言って川のほうに行った。そして、家光さまは、蕎麦屋に入っていった。
そばはおいしかった。美味しくて気を抜いていた。そして気を抜いたところに災難というのは来る。油断大敵。家光さまが食べているすきに、
「お命ちょうだい!」
という声と同時に刀が家光さまを襲った。その時はかすっただけで済んだが、大声をあげてしまった。
「うわぁー」
その声でのんきに水切りをしていた家来も駆けつけて、家光さまは助かったがそれを伝えられた家来たちは、さすがにこれは家光さまが油断し過ぎだと考えるようになった。
次の日早朝から会議が開かれた。議題は{家光さまをどうすれば油断しないようにできるか。}だ。早速意見が飛び交わされた。
「家光さまは油断していていい。我々が城下町でも、城の中でも家光さまをお守りすればいいのだ。」
という意見があっても、
「そのようなことをすれば、城下町の自由な
感じがなくなってしまうぞ。」
という意見でねじ伏せられてしまったりするもんだから、全然意見がまとまらないまま、昼飯の時間になった。そして昼飯を食べている間にみんなで同じ言葉をつぶやいた。
「昼飯・・・そば・・・父親・・・」
午後に、見事一瞬で意見があったのであった。
次の日昼時、
「家光さま、今日は城下町でそば祭りというものがあるそうですよ。蕎麦食べに行きましょう。」
と、前と同じ家来が誘った。勿論家光さまは
「よし、いこう。今すぐ行こう。風の速さで飛んでいこう。」
と言って乗ってきてくれた。もちろんこのそば祭りは真っ赤なウソ。家光さまを城下町に連れ出すためだ。
城下町に連れて行ったところで貸し切りにしてある蕎麦屋に家光さまを連れて行った。「ここのソバ屋がおいしいと聞いたことがあります。」
と家来が言うと家光さまは
「楽しみだなあ。」
と言って油断している。家来は
「それではわたしは河原で水きりでもして待っています。」
と言ってその場を離れた。
家光さまが入ると、いきなり
「油断大敵!」
という声が聞こえた。
「誰だ!」
家光さまは負けじと言い返したがその声が震えているということに自分では気づいていなかった。そんな威圧感を持つ声だった。
「おとといはそばに気を取られて周りに注意せず、普通の客にも迷惑をかけた。そして、今日は何も疑わず、そば祭りというのに騙されてついてきてしまった。そんなのはゆるされないぞ家光‼」
「お前、わしが将軍だと知っていてのぶれいか!」
といえみつはその声の持ち主に聞いてみたが、その声の主はなんと二代目将軍徳川秀忠だったのだ。秀忠は言った。
「これからは絶対に油断はしてはいけないぞ。周りの者たちも大変だからな。」
「はい!」
親孝行者の家光はそれからというものその言葉を律義に守って一度も油断しなくなったそうだ。そして、油断しても人が切ってきたりしないように厳しくなったんだそうだ。ついでに言うと家光はこの事件があってからというものそばが嫌いになってしまったのだと。
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